杉元、月島、鯉登…男たちの覚悟と狂気はどこへ行く/ゴールデンカムイ18〜22巻感想

しばらくコミックスを追えてなかったゴールデンカムイの18〜22巻を一気に読んだのでざーっと感想を書きます。「尾形がヤバい!」って噂は1〜2年前から漏れ聞こえていたんですが、直近だと「鯉登…何…?????」とうなされているフォロワーさんがいたので気になってしまった。

 

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※ネタバレありまくり感想です

 

18巻

門倉ーー!!絶体絶命ーー!!と思ったらまさかまさかの。ものぐさでダラッとしてる印象だったけどこんな”凶運”キャラとは。土方さんが「若い頃に薬売りをしていた経験が役に立つとは」というセリフでピンチを脱するの、これは新撰組ファン泣かせのすごい演出…と思いました(石田散薬…!!)。野田先生、こういう細かい史実ネタ織り交ぜるのが本当に上手い。同じ手段で無毒化に成功した2人ですが、門倉が生き延びたのは運で土方が切り抜けたのは度胸と経験。はー、すごいな…。

 

キロちゃん・ウィルク・ソフィア過去編、圧巻でした。もう本当に野田先生の構成力すごすぎる…。まず、穏やかそうな写真館の主人が実は日本軍のスパイだった、ってだけでも怖いのに、その後さらなる驚きを用意しているなんて!!長谷川幸一として初登場した写真館の主人のときは何も気づかなかったけど、息絶える瞬間の妻に自分の本名を明かすときの顔、う…うわ…うわーーー!!そういうことーーー!?!って超どきどきした。これってあの…あのお方…ですよね?下の名前公開されてたっけ、どうなんだろ…

つくづく金カムは見開き大ゴマの使い方がうますぎて、だから紙の本で読みたくなるんだよな。

日本語レッスン中のキロちゃんの「ワタシ…デブ女…好き…デース」がまさかフラグとは…面白すぎる笑(これ、ソフィアの過去と現在のビジュアルがかなり違うということを読者には結構ギャグっぽく見せてたのもフリが効いててすごい!と思った)

 

さらりと描かれてましたが鶴見には妻と子供がいたことがあり、顔色ひとつ変えず遺体を燃やしたことがある、というのは今後の彼を見ていく上でも気にしていたいなーと思います。なぜなら第七師団において彼はかなり”父親”的役目を担っている気がするからです。

 

19巻 

運命はここに廻り来たる。絶滅したエゾオオカミと生きていた少女の父親が持つ名前…レタラ登場が2巻だったことを考えると本当にすごい構成だ。

猛吹雪の中、杉元と白石の再会、尾形と杉元の狙い合い、キロランケと谷垣の対峙…様々な関係性の男たちが一気に再集結。その最中、尾形とアシリパの問答の緊張感すごかったです。尾形は信用しちゃだめー!アシリパさーん…!と手に汗握りながらページをめくった。尾形の狂気が剥き出しになっていくのが怖すぎる。尾形が勇作に抱いている複雑な気持ちは前々から描写されていましたが、それをアシリパさんに重ねてアシリパさんに対しても病んでいくの怖!!なるほど彼の強烈な闇は、親に対してというより弟に対して向けられていたものなんですね…。

尾形の目的は一体なんなんでしょう。

尾形は金カムの中でも割と色男側の人間として描かれていたと思うんですが(かんばせというよりは、所作が)、ためらいなく瞳を射抜く野田先生の力よ…。

アシリパさんと杉元の再会シーン、見開き大ゴマ…!うるっとしました。なのにその数ページ後には白石のオシッコでまた見開き大ゴマを使うのが野田先生の独自のセンス。

 

仕掛け爆弾に人より早く気づき鯉登をかばって怪我する月島軍曹は、さすがの一言。自らを顧みず、与えられた仕事を淡々とこなす実直な男。…と思っていたら、その後の鯉登少尉がすごかった!彼は若くて変人なボンボンだけど、とにかく組織の上に立つ器ではあること、そして腕が立つ薩摩隼人ってことがビシバシ伝わってくる。

ゴールデンカムイの面白いところは、基本的には利害関係で組むか組まないかを判断しており、それまで一緒に旅していたキロランケも敵側になった瞬間に迷わず撃つ、その緊張感よ…。キロちゃん、結局谷垣と月島がとどめさした形になるんですね。

私はここのソフィアの行動(氷を空中に投げて自分が海の中に顔をつっこむ)がよくわからなくて、自殺しようとしてるんか?と思ったら次巻で生きていたし…どういうことなんだろう。

キロちゃんがここで死ぬとは思わなかった、悲しい…悲しい……。でも死ぬ前の走馬灯に「この旅は無駄ではなかった…いや結構無駄なことしたな」ってコマを入れてくるのほんとシュールすぎてずるい!!笑 このシリアスとギャグのバランスよ。

 

20巻

キロランケの死を唯一悼んでいそうな白石は作中最も「普通の感覚を持っている男」だとしみじみ。白石とキロランケ、仲良さそうだったもんな…。他の男たち(杉元谷垣鯉登月島)の顔つきの違いよ。白石だけこいつらと違って軍人じゃない、というのが活きている。

しかしキロランケは多くの謎を残して死んでしまいました。尾形とどうやって組んだの?ウイルクを殺したのは誰?そもそもインカラマッのこともどうなっている??…いろんなひとの視点から物語は進むのに、謎は深まるばかり…おもしろ…。

 

初登場、菊田特務曹長と有古一等卒。最初なぜだか2人のポジションがよくわからんくて何回か読み返した…。さらっと出てくる史実シリーズ、「有古はな…あの八甲田山での捜索隊のひとりだぞ」という台詞、力作Wikipediaとして有名なあの八甲田山…!と思った。このWiki読んでしまって怖すぎて私は今も山が怖いため、実感をもって有古の身体的な屈強さを理解。

あんまり貼りたくないけど貼っておこう…。

ja.wikipedia.org

アシリパさんの心を守るために尾形の命を救おうとする杉元。姫と騎士って例えが適切なのかはわからないけど、杉元のアシリパさんに対する誠実さって絶対に揺らがないから良い。

 

鯉登少尉過去編。ついに明かされる鯉登の過去、鯉登はなぜこんなに鶴見中尉を好きなのかが判明します。鶴見中尉はロシア語が堪能(スパイだったし…)、月島もロシア語を話せる(勉強させられたからね)。そして尾形も話せるっぽい…これいかに??鯉登父の無表情なのに面白すぎる三輪車爆走(到着した瞬間のフレディ・マーキュリーポーズなんなんwww)からの、かっこいい救出劇、ゆるーい「月寒あんぱんが私達を引き合わせたのかな?」「もすッ」あはは… の、次ページをめくった瞬間の第七師団たちよ!!顔怖ーーーーー!!!!!

伏線はあって、日本語がわからないロシア人のはずの誘拐犯が「兄さんのような息子になれず申し訳ありません」と真っ直ぐに頭を下げる音之進を見て一瞬手が止まること、国のために死ねと言っておきながら無我夢中で息子を助けに駆けつけた鯉登父を見て舌打ちし「ボンボンが」と吐き捨てること。ああ、全部、尾形が欲しくてたまらなかったものなんだ、と思った。尾形が一番欲しかったものを鯉登は全部持っている。

 

21巻 

何回読んでも泣いてしまう21巻。。

 

鯉登はロシア語がわからなくて、だからこそ人生で命の危機を感じた瞬間に二度も聞かされた「バルチョーナク」という単語を鮮明に覚えていた。そしてそれを月島に聞く関係性になんだかグッときてしまったよ…。

再登場の頭巾ちゃん。名前も素性もわからないわけですが「尾形を殺したい」という目的があるっぽくてしれっと一味に合流。今後本筋にどうやって絡んでいくか気になる…。

別行動で動いているソフィアは、岩息・スヴェトラーナと動くようなのですがここの動きも今後本筋に関わってくるんだろうなあ(だって岩息の出番はもう終了かと思ってたらまた出てきたんだもん、絶対何か意味ある)。

 

唐突に挟みこまれた「活動写真」のシーンですが、アシリパさんがアイヌの文化を残したいと思っているから…という意図から始まったものの、「アシリパが赤ちゃんだった頃の両親の姿がわかる」っていうのと、その後の谷垣チカパシ別れのシーンの伏線まで組み込まれていておもしろかったー!白石がアシリパ母を見たときの「素敵な感じのひとだなあ」っていう素朴なコメント、めっちゃ白石ってかんじする。いいやつだなあ。アシリパの目はお父さん譲りと何回も描写されてきましたが、顔のつくりはお母さん似なんですね(ハリー・ポッターと逆じゃん… 運命の親子あるあるなのかこれは)。

 

杉元がアシリパに対して「金塊争奪戦から降りて欲しい」と思っていること。ゴールデンカムイを好きな人なら100万回聞いたことがある評論だと思うんですが、ゴールデンカムイの本当にすごいところは「杉元が、『和人−アイヌ』『大人−子供』『男−女』とすべての関係性において”立場が弱い側”であるアシリパのことを「さん」付けして呼び敬意をもって接していること」「その上で杉元はアシリパのことを”子供(保護される側)”として扱っていること」が徹底されている点であって、これは日本のエンタメ作品、特に少年漫画ジャンルでは非常に珍しいことなので、ほんとーーにすごいことだといつも感動しているのですが、徹底的にそのような倫理観の持ち主として杉元を描いた上で、ここにきてアシリパや白石が問う「杉元お前は…!!私のためじゃなくて自分を救いたいんじゃないのか?私の中に干し柿を食べていた頃のような自分を見ているだけじゃないのか?」「彼女はもういろんなものをこの島で学んで成長したんだ。もうお前が出会った頃のアシリパちゃんじゃねえんだよ!!」といった言葉が鋭利なナイフのように私の心をえぐりました。そうくるかーー!そうくるのかーー…!!

これははっきりいってどっちの主張も正しいわけで、最初からアシリパさんは自分のことを「新しいアイヌの女」と称し、狩りもできて少女にしては戦闘力も高い。ではあるがまだ少女なので、杉元や周囲の大人たちが意図的にアシリパに見せないように努めていたことも確かにあるのを私たち読者は知っているわけです(死や性のこと、危険なことなど)。子供は子供として扱わなければならない、という倫理観は確かに正しいのですが、それは「彼女を対等な1人の人間として扱っていない」のとニアリーイコール…なの、かも、しれない。白石の主張も間違ってないし、アシリパの年齢設定が活きてくるなぁと思いました。作中でどれくらい年月が経っているのか不明ですが、出会った頃と今の年齢が明記されていないので、今後の杉元のアシリパとの向き合い方が気になる…。

アシリパは「運命の女の子」ではあるんですけど、意思がある一人の女性でもある。キャラクターや関係性が単純じゃないところがこの作品の厚みだなぁと思うのでした。

 

江渡貝くん(大好きだったキャラクター!!久々に名前出てきてうれしい。思えば彼も”親殺し”して鶴見になついたひとりだね)が作った刺青人皮、ここにきて出番が。めっちゃ混乱するんじゃないかと思ってたらあっさり土方が「これは偽物」と判断できていて拍子抜け…今後も使われていくアイテムになるんでしょうか。どきどき。

 

谷垣とチカパシの別れ、何回読んでも泣いてしまう…(だから今回谷垣表紙なのかなぁ)。活動写真のシーンと対になるように、今度のチカパシの顔を濡らすのは谷垣の涙。谷垣の別れの言葉、本当に全部よくて何回読んでも涙がぼろぼろ溢れて止まらなかった。旅するために偽装家族として行動していて、いつしか本当の親子や兄弟のような関係になっていたチカパシに、二瓶から託された銃を今度は自分が託す。二瓶が谷垣に伝えた、男が一人で奮い立つこと。チカパシにはちゃんと伝わっていた。血はつながってなくても、命はめぐるね。

 

鯉登が鶴見の真意を知る瞬間。キャラクターの年齢については明言されていませんが、「誰と誰ならどっちが上」みたいなとこまでは決まっているらしい金カム(いいよねえーこの感じ)。この質問箱によると鯉登少尉は出てくる日本軍出身キャラの中でも最年少であるわけです。

 

youngjump.jp

若くて華があり腕が立つが、ものすごいおぼっちゃま育ちのボンボンっていう極端な設定が鯉登の魅力なわけですが、「年が若い」「金持ちの家の子」なのに加え、他キャラと一番違うところは「父親との関係が良好」ってとこではないでしょうか。もっというと、「父親殺しをしていない」というところが鯉登の特別性だと思います。

鶴見は自分の部下たち(月島や尾形)には父親殺しをさせておいて、そこに甘い嘘を塗りたくり自分が擬似父親ポジションになることで、第七師団という”彼のためなら命を投げ出し汚れ仕事も進んでやる兵隊を作るため”の組織を作り上げている。月島が全部気づいた上で鶴見の下についているのは、もういろいろ諦めた人で、この人も狂気の持ち主なんだな…とじわじわわかって怖かった。全部知った上で「鶴見中尉殿スゴ〜〜〜イ!!」な鯉登も狂っとる。第七師団には狂人しかおらん。おもしろすぎます。

宇佐美の過去もこれから明かされるのかなぁ。

 

 22巻

ここまで一緒に行動していた月島・鯉登もするっと敵側へ。ここがゴールデンカムイのおもしろいところー!!そしてアシリパさんのためにためらいなく鯉登をぶっ刺す杉元…不死身の杉元、本当にかっこいい。みんな行動原理がマジで兵士で痺れる。

ここで谷垣と別れるとは…!「悪いな谷垣この馬は四人乗りなんだ」という小ネタに笑う。いろいろな経験を通して谷垣はマタギとしての自分を取り戻し、もう兵士ではないと覚悟が決まったようだ。別行動になった谷垣は今後どうなるの…?そしてインカラマッ今何してんのかな(本当に生きているんだろうか…)。

 

アシリパちゃんの覚悟。「暗号を解く鍵を知っているのはアシリパだけ」というのが杉元・白石陣営にも鶴見陣営にも共有されているので、アシリパのことはまだ誰も殺すことができないという強み。同時に一番存在を狙われているのもアシリパさんではあるのだが、アシリパは自分の立場を深く理解していて、杉元を守れるのは私だけという覚悟を決める。これは結構どす黒い決断だなぁと思います。お互いに「彼/彼女を守れるのは自分だけ」という覚悟をひっそりと胸に秘め、それを相棒という言葉に置き換える2人。

 

平太師匠篇、怖かったー!! 江渡貝くんのときの恐怖がよみがえった!!笑 言葉を話せない頭巾ちゃんの絵で真相が一気に明るみになる瞬間!!鳥肌たちました。

杉元たちの面白いところ、相手がどんなやばい人間であろうと「姉畑先生」「平太師匠」などいちいち敬称をつけて呼ぶシュールさ。登場人物たち全員に真面目なところと狂ってるところがあるのがゴールデンカムイにしかない世界観…。

 

 

 

そんなかんじで、一気に読んでしまうし何回も読んでしまうゴールデンカムイ。おもしろいよー!おもしろいよー!!って叫びたくなる。ほぼ唯一集めている漫画。こういう話が私は好きなんだなあ…って思う。

9月には23巻、10月からはアニメ3期も始まるし、楽しみ楽しみー!!

 

 

 

 

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