【どう思った?】黒人の友達といっしょに実写版リトルマーメイドを観てきた

よかったわよぉ~~~!!!!!涙涙涙

もくじ

 

 

”黒人のアリエル”に対する私のスタンス

まず、この映画を観る前の私のスタンスですが「日本生まれ日本育ちの日本人*1は、この議論に関しては蚊帳の外なんだろう」というものです。
最初にアリエルをバイレイシャルの役者が演じると知ったときは正直マジか~と思ったのですが、その後色々な議論を追っているうちに意見も変わってきました。特に私の意見を決定づけたのは、日本で生まれ育った黒人ハーフの女の子たちのこのYoutubeを見てから。

www.youtube.com

ありちぇるちゃんたちのYoutubeは以前からたまに観ていて、彼女たちの明るいキャラや面白トーク、独特の着眼点が魅力的でもともと好きだったんだけど、この議論に関する彼女たちの意見は、現状世に出てる論点をほぼすべて抑えてるし、非常に芯を食ってるなと思いました*2

彼女たちの語った以下の言葉(14:27~)がすべてだなと思っています。

ちぇる「考えてみて、その、ずっと小さいころからね、小さいころから、しかもこれディズニーに関係なくだからね?ディズニーのアニメに関係なく、いろんな映画とかドラマとかCMでも、全部黒人だったらって考えてみてくださいwww」

あり「wwwww 笑っちゃったwwwwww」

ちぇる「笑っちゃうでしょ!?wwwww なんだなんだってなるじゃないですか!!」

あり「うん…w」

ちぇるテレビをつけたら、黒人。携帯でYoutubeを観てたら、あっCMが入った…黒人。この商品のパッケージ、黒人。みたいな。そういう環境にずっと育ってきたと考えて、21歳になりました。21歳になって、あ、ディズニー/ピクサー、実写化の映画するらしいよ~、予告を観たら…」

2人「日本人!!!!!!!wwwwww

あり「そういうことだよねwwwww」

ちぇる「感動的じゃない!?!?!wwwww」

あり「感動的だよお!しかもたとえばそれが、アニメでは黒人のキャラクターだけど、実写になります、予告編観ます、」

2人「日本人……!!!!!wwwww

ちぇる「ウソ!?!?!wwwww」

ありちぇるちゃんたちはまた欧米諸国に生きる黒人とは違う立場だと思いますが、日本人がかなり想像しやすい例えを出してくれてるなと思います。いわく、「テレビや映画の中で“自分みたいな人”を今までほぼ観たことがない人たち」にとって、このキャスティングがどういう意味を持つかということ。逆説的に私は日本生まれ日本育ちの日本人で、テレビや映画で目にする人はほぼみんな日本人という社会で生きてきたので、そういうことについて考えたこともなかった、つまり、このキャスティングに文句を言う資格はない属性に属してるんだなと思ったのでした。「別に私はアリエルに日本人女優が起用されたとしても嬉しくないし」とか日本育ちの日本人が思うのは、別にアリエルじゃなくても自分と同じ属性の人を山ほどメディアで観てるからそれはそうなのであって(ヒーローもヒロインもヴィランも、歴史ドラマも現代ドラマも、働く大人も学生も、登場人物みんな日本人なTVドラマが普通の世界で生きてる)、論点が違うというか、良くも悪くもこの議論が必要とされている場にそもそも立っていない、という認識(自認)でいます。日系アメリカ人の方や、アメリカに住む日本人の方とはそもそも置かれてる状況が違う。東京ディズニーランド/シーのハロウィン期間に「コスプレしたいけど私はアジア人だからムーランしかしたらダメだよな…」と思ったことある日本人なんてこの世に1人もおらんだろ(むしろムーランは中国のプリンセスなので自分たちとルーツを同じくするキャラクター!という意識、日本人にはあんまりないと思う)。これが良い悪いとかいう話ではなく、日本はほとんどの割合が同じ人種/民族で構成された国*3で、そういう社会なんだ、という話です。

アメリカなど多民族国家では社会の構成要素として黒人が結構な割合をしめるにもかかわらずメディアの中心にいるのは常に白人、というのは確かに問題だなとわかるし、そういうムーブメントの果てにアリエルを非白人が演じるとなった背景については想像できると思いました。

※あと日本人は、日本のアニメを日本の俳優が演じる実写映画化でも、大抵「なんでこんな原作改変すんねん」「似てなさすぎ!事務所のゴリ押しでキャスティング決めないで!!」みたいな悲劇がまあまあの確率で起こるため、”アニメの実写化はなるだけビジュアルが似てる人にやってほしい”っていう願望が結構あるんだと思うし、私もその1人なのですが、今回はこの議論については割愛します。黒執事実写化に剛力彩芽を出す国に生きてんだ*4、俺たちは

 

映画の感想

私的にはアースラがMVP!!Poor Unfortunate Soulsすごすぎて拍手しそうになった。彼女の歌と芝居がこの作品のクオリティを底上げしていると思ったほど。
ハリー・ベイリーは、Part of your worldのシーンを観ながら、このために選ばれた子なんだな~としみじみ思って、アリエルは人魚姫なので抜群に歌がうまい人である必要があり、そう納得させる圧巻の歌声だった。そして歌だけではなく、純真で好奇心旺盛で勇気がある少女…という、プリンセスの素養を持ってる雰囲気も感じられた。個人的な感想としては「もうアリエルにしか見えない!」とまでは思わなかったけど、これはたぶん肌の色っていうか顔立ち自体があんまりアニメのアリエルに似てない(ハリーはかなり丸顔なのと目が離れ気味な顔立ち)からかなぁと思ったりもしたけど、そう思った理由のひとつは、アースラとトリトン王とエリックはアニメのキャラデザそのまんま生き写しみたいなルックだったってのがあるwww 全員まじでそっくり。似すぎ。なんか、アリエルは魂で選んでるのに他はビジュアルで選ぶんかーい!ってのも含めておもしろかった。けど、アリエルをハリーが演じたことに何も文句はないし、とてもかわいくピュアで魅力的なアリエルだった!!
お姉ちゃんたちの設定変更も個人的には好きでした。お母さんは全員同じってことでいいんだよな…?笑
実写版あるある、設定の深堀も今回とてもうまかったと思います。エリックの育った背景に関して追加の設定が加えられたことで、お互いただの一目惚れではなく、惹かれ合う理由がわかったし、エリックがただ“王子だから”いいんじゃなくて、魅力的な男の子にちゃんとなってたと思います!エリックソロ曲追加もよかったね~
私はリトルマーメイドは実は「父娘の話」なんだよなってとこが好きで、お父さんがアリエルのためにアースラと契約してしまうシーンでいつも泣いちゃう。そして、アリエルに足を与えるラストシーンも…。私はいろんな物語の中で、頑固者だと思ってた父が娘のために自分の大事な何かを躊躇いなく犠牲にするとか、娘の新たな人生を父が背中を押すみたいなシーン出てくるとめっちゃ泣いちゃうのであった。

そして、ガチのカニ・魚・鳥になっていたセバスチャン、フランダー、スカットルですが、声優陣がさすがの出来栄えでwww 音楽でリン=マニュエル・ミランダが参加してるし、ダヴィード・ディグス*5とオークワフィナだしで、正直観る前から期待してたけど、やっぱりセバスチャンとスカットルでラップ始めたときは「きたーーーー!!!www」と思ってニヤニヤしまくりでした(客席も結構笑ってたw)。私はオークワフィナが好きなんですが、オークワフィナ節炸裂で、まさに彼女の得意分野だよねえって感じでした!*6原作でスカットルはオスだと思うんだけど、実写版でsheって言われてた気がするから性別自体変更になったのかな?それとも男の子のキャラをオークワフィナが演じてたのかな?自信ないw
最後にアリエルがお父さんとハグしながら涙を流すシーンがあったけど、冒頭にアンデルセンからの引用で「人魚は涙を流さないのでそのぶんもっと痛みを感じている」みたいな言葉があってそれに対するアンサーなのかなと思った。たしかにアリエルは自分のコレクションをお父さんに壊されたシーンでさえ涙は流してなかったから、パパとの別れで涙を流したのは彼女が人間になったからこそのシーンなのかなと思いました。

 

いっしょに観た友達(黒人)と話したこと

さてブログタイトルにもありますが私はこの映画を黒人の友達と見てきました。彼は日本語を10年近く勉強していて、私より日本のアニメやポップカルチャーに詳しいガチオタで、私と仲良くなったのも、言語学習者が使うアプリで「櫻井孝宏のスキャンダルってその後どうなってるの?冨岡義勇は降板になってしまうのか?」といきなりメッセージが来たことがきっかけだった(知らねーーよ!!!!www)。その後彼がなぜか暴太郎戦隊ドンブラザーズをとても熱心に観ていることが判明し、彼も彼でドンブラザーズの話を直接できる人間(私)と世界で初めて会ったということで大感動してくれて、そんなこんなで今も定期的に遊ぶ友達となった。まさに縁ができたな!!状態である。
映画を観終わったあと彼とめちゃくちゃ感想語り合ったんですがそのディスカッションがおもしろかったので残しておきたいと思います。

ドンブラザーズ 1話 「あばたろう」 感想 : グマのメンヘラ日記

 

“黒人アリエル”が叶えたもの、奪ったもの

「ハリー・ベイリーは完璧にアリエルだった、もう彼女に文句を言う人はいないと思う」というのが彼の個人的な感想だったけど、「今も不満がある人がいるとしたらginger hair(赤毛)の人たちのコミュニティだろうね。ハリー・ポッターロン・ウィーズリーいるでしょ?あんなふうに赤毛の人っていうのは物語の中では主役になりづらく、脇役でちょっとからかわれやすいポジションっていうのがステレオタイプだから、そういう人たちにとってアリエルはとても重要なキャラクターだったの。実写アリエルは赤っぽい髪の毛ではあったけど黒人のトレッドヘアだから、赤毛の人たちは自分たちの大切なキャラクターを奪われたと思う気持ちはあるだろうね」と言ってた。私は単にアリエルは“白人”でなければいけないという議論があるもんだとばっかり思っていて、その中でも“赤毛の人”じゃないと!っていう意見があることまで知らなかったため勉強になった(アリエルの赤髪は現実のginger hairというよりアニメキャラの赤髪っていう印象だった)。

今回のキャスティングの背景にある、アメリカにずーーーっとある社会問題は何

散々言われてきたことだけど、今回のキャスティングが何のために行われたかというと、「メディアの中にいる人は常に白人」っていうのが問題視されてきたから。彼は30代だけど、子供の頃はウィル・スミスくらいしかメディアに登場する黒人がいなくて、実際の社会に黒人は結構な割合いるのにメディアの中に黒人はほぼ出てこず、出てくる黒人と言えば「強い」か「面白い」のどちらかのステレオタイプに当てはまるキャラクターしかいなかったらしい。これは「自分たちは社会のメインストリームにいない」と思ってしまうだけではなく、「黒人ってのははこうあるべき」というステレオタイプを実社会で助長させる原因にもなってしまってたとのこと。例えば彼は黒人だけど、全然典型的な黒人ってタイプではない。What’s up bro!?って感じじゃないし、アニメ大好きでHIP HOPとか全然聞かない。でもアニメ好きとかだと、黒人の友達たちからも「お前は黒人じゃない。外側は黒人だけど中身が白人、OREOだ」とか言われるらしい(同様に、白人みたいな中身のアジア人はバナナって揶揄されるらしい)。

「黒人のプリンセス映画を別に作ればいい」というわけではないのはなぜ

黒人アリエルの議論の中で、「別にアリエルを黒人が演じなくても、黒人プリンセスの映画を別で作ればいいんじゃないか?」って意見もあるんだけど、それだとなぜ意味がないかという話で、先にもあったように、「黒人はメインのキャラクターになれない」「黒人は白人のメインキャラクターをサポートする立場でしかない」っていう描かれ方が多すぎる現状を改善する必要があるから。また、「黒人の映画は黒人のものと思われてて黒人しか見ない。白人の映画は全員が見る」という現状があり(これはジェンダー関連でも同様の議論があり、女性主人公の映画は女性のものと思われて男性は観ないが、男性主人公の映画は男女関係なく観る、という傾向がある)、だからこそ、リトル・マーメイドという老若男女・人種問わずすべての人が自分と関係ある物語と思っているTHEメインストリームな作品の主人公を非白人キャストが演じることに意味があった。リトルマーメイドだったら、どんな人種の人が演じてようが観なきゃ!てみんな思う、そういう力のある作品でこういったキャスティングをする必要性があった。

FRIENDSという超有名なドラマがあるが、このTVドラマは今もみんなに愛されてるくらい巨大コンテンツだけど、実はFRIENDSより前に黒人たちによるかなり似たプロットの“In Living Color”というドラマ(※6/14修正 本当にすいません。我々の会話のうろ覚えで、正しくは”Living Single”というドラマでした。下記のリンクも修正しています)があったらしい。話や雰囲気はほぼ同じなのに、このドラマのことは誰も知らない!「黒人が主人公のドラマは黒人しか見ない」の典型例。

 

”黒人クレオパトラ”は、黒人アリエルと同じ土俵の議論なのか?

そっから少し話は飛んで、最近話題になっていた「黒人クレオパトラ」の話になった。

www.bbc.com

私は、「アリエルを黒人が演じるのはわかるけど、クレオパトラを黒人が演じることにエジプト人が怒る理由はわかる」という立場で、彼も「クレオパトラは黒人だった、を“ドキュメンタリー”と言ってしまうことは問題」という立場だった。クレオパトラがもし黒人だったら…?というifの話をエジプト人がフィクションとわかってて作る、とかとはまた質の違う話だと思っていて(日本では結構、戦国武将の○○女体化みたいなコンテンツは存在するけど、それはあくまでも全員が“これはフィクションで正史は別にある”という事実を共有できてるからこそ可能なエンタメだと思う)、あの話をアメリカ人が勝手に作って「黒人の女王の話を語るのは私たちのコミュニティにとってとても意味のある事!!」とか言えちゃうのは、いくらなんでもアメリカ人すぎる…と私は思う。彼のスタンスも「あれをドキュメンタリーと言ってしまうのが問題だと思う。クレオパトラは黒人だったという歴史的な証拠はたぶんないはず。それなのにあれは“これはドキュメンタリーです”とだけ語っていて何も証拠的なものは出していないから…」と言っていた。

ただ彼は私よりその背景についてもう少し詳しくて、「あのNetflix作品を作った人の中にジェイダ・ピンケット・スミス(ウィル・スミスの妻)もいるんだけど、彼女は“アフロセントリズム”という、古代ギリシャやエジプトなどの歴史は黒人から始まったという考えを支持している人で、だからああいう作品を作ったんだよね。黒人のなかでもアフロセントリズムは主流の考えというわけではないんだけど、黒人は他の人種に比べて“自分のルーツを知りたい”という気持ちが強いのは、傾向としてある。アフリカに住んでる黒人は別だよ、でも北米にいる黒人はその傾向がある。例えば、僕の苗字は○○っていうんだけど、実はこれは先祖代々の苗字じゃなく、奴隷制があったときに奴隷のオーナーだった白人の苗字なんだよね」と説明してくれ、ここまで聞いた私は心から「マジで!?!?!?!」と言った。「そう、だから、北米に住む黒人は自分のルーツがどっかで途切れてるから、過去のことを知りたいって思うんだよね。黒人の中で日本の歴史とかにすごく興味がいる人がいる理由は、日本の歴史は何百年前のものであろうと今の社会と地続きで本物であることが明確だから。だからとても昔のことまではっきりわかってる日本の歴史をおもしろいと感じる。アフリカに住んでいる黒人に同じことは起きてない、彼らはちゃんと自分たちの文化や歴史を継承してるから。でも北米にいる黒人にはそういう現状があるんだよね」と言ってた。

アニメであっても、アニメキャラクターと同じ人種の役者が声優をやるべきか?

「キャラクターと同じ人種の役者が声優をやるべきか?」という話になり、私は「基本的にはそうだと思う。最近のディズニーは、例えばモアナはポリネシア(ハワイ、サモアニュージーランドなど)ルーツの声優を使ってたし、実写ライオンキングもアフリカルーツの声優、ミラベルもコロンビアルーツの声優を使ったりしてたけど、大正解だと思う。けど日本のアニメではまだそういう議論は少ないかな~、まあ日本の学園アニメに人種の多様性とかそういう概念自体がないってのがあるから」とかいう話をした。ディズニー映画の声優と日本アニメの声優を同列に語ることはできない…と私は思う。

彼から出た事例として、「シンプソンズって有名なアニメがあるんだけど、その中にインド系のキャラクターが出てくるの。でもその声優は白人で、インド訛りを真似して演じてたわけ。で、それは最終的にインド系コミュニティが抗議したんだけど、そしたらなんとシンプソンズは声優を交代するんじゃなくそのキャラクターをもうアニメに出さないことに決めたわけ。これはこれで問題だよな」と言ってた。

 

日本のアニメにたまに出てくる黒人のキャラクター、実写版で黒人の役者が演じない問題

その話から、「日本のアニメにたまに黒人のキャラクター出てくるけど、実写版で黒人の役者が演じないじゃん、あれは日本では問題になってないの?」と聞かれた。例えば“約束のネバーランド”のシスター・クローネは明らかに黒人のキャラクターだが、実写版で渡辺直美が演じている。私は直美ちゃんを好きだけど、言われてみれば彼女はコメディアンで、「黒人のキャラをコメディアンに演じさせる」と判断しちゃった製作委員会の考え方は実はかなりステレオタイプ的で配慮に欠けた危険なキャスティングだったんじゃ…と思った。一方で、エマ/レイ/ノーマンという名前からして主人公たちももはや非日本人であるはずだから、彼女たちを日本人が演じている中でシスター・クローネだけ黒人?っていうのもそもそもちぐはぐだし、日本で日本語が話せて演技ができる黒人の役者がどれくらい候補としているのかなと思ったりもした。探したらいそうな気もするが…*7

同様にBLEACH実写化でチャドはメキシコのクォーターという設定なのにキャスティングは普通に日本人だったのも彼としてはどうなの?と思っていたらしい。

 

私が「あなたの言いたいことはわかるし正しいと思う、本当はキャスティングに人種も反映すべきだよね。だから今私が危惧してるのはゴールデンカムイの実写化なんだけど、アシリパさんはじめアイヌのキャラクターは本当はアイヌルーツの役者が演じるべきだと思うんだけど、いま日本の芸能界のメインストリームにアイヌルーツの人がほとんどいないから、みんな、どうせアシリパさんは橋本環奈が演じるんだろうなと思ってるよ」と言ったら苦笑していた。

www.oricon.co.jp

日本のポップカルチャーに対する黒人アニメファンの意外な反応

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黒人のアニメ好き中には、肌の色が白くないキャラが出てくると「黒人だーーー!!」と言い出す人が結構いるらしい。例えばBLEACHの夜一とか、黒子のバスケの青峰とか。彼は「名前からしてどう見ても日本人でしょ!!!!www」って思うらしいけど、そう主張する人は意外といるんだって。私は「それは日本の中では“褐色キャラ”っていうんだよね~www」という話をした。特に大人数の学園モノとかだと単に見た目のバラエティをつけるために1人くらい褐色キャラっていうのは存在するもんだが、意外なところで黒人の人たちから好意的な反応を得ているようだった。

ボーボボも黒人から見ると黒人キャラに見えるって本当?と聞いたら本当だよと笑っていた。ボーボボが自分と同じ属性だったとして何が嬉しいんだよというのも含めて笑える。けどアフロで肌が黒くて唇が厚いから言われてみれば黒人っぽいんだよな。

ドラゴンボールフリーザも黒人から見たら黒人に見えるらしくて「肌の色、白と紫じゃん」って言ったら(※6/12修正 本当にすいません。黒人から見て黒人に見えるDBのキャラクターは、ピッコロだそうです。大変失礼致しました。上記の画像も差し替えています)「そうなんだけど~、なんかあるんだよ、黒人ぽい特性っていうかさあ…」って言ってた。なんかあるらしい。でもなんか、フィクションに出てくる肌が青とか緑のキャラクターは実写版だ黒人が演じがちみたいなの、なんかある気がする(実写アラジンのジーニー、実写ウィキッドのエルファバとか…)

www.cinemacafe.net


だが実はこの反応には重要な背景もあって、要は、実写アリエルの話とかともつながってくるんだけど、「自分と似た見た目の人をメディアの中でほぼ見ない」と感じてる人たちにとって、肌の色が暗いキャラが自分の大好きなアニメに出てて、しかもそのキャラがかっこよかったり魅力的な性格だったりすると、めちゃくちゃめちゃくちゃ嬉しいと思うらしい。その気持ちはなんだかわかるかもなあと思ってしまった。
さらにこれは『黒人とコスプレ文化』の議論にもつながるのだが、北米のアニメファンの中で、白人がアジア人キャラのコスプレを、アジア人が白人キャラのコスプレをしても成り立つけど、黒人のアニメ好きにとって「自分がコスプレできるキャラ」と感じるキャラクターはとても少ないらしい。もちろん黒人が日本人キャラ(鬼滅の刃とか)のコスプレをしてもいいし、実際する人もいるんだけど、そういう人はまわりからいいコスプレだねと言われにくいというか、「写真撮っていいですか!?」と声をかけられることが少ないらしい。実際、私は彼とアニメイベント行ったときにいろんな人のコスプレを撮らせてもらったけど、言われてみれば白人かアジア人の写真ばかり撮ってたな…とドキッとした。彼は北米のアニメイベントで一度だけコスプレをしたことがあるけどそのコスプレは戦隊ヒーローのスーツで、「肌を隠すコスチュームだから、誰からも文句を言われないと思った」と言っていた。
そういう現状もあり、アニメに褐色キャラがいるとめっちゃ嬉しいんだって。

 

日本のアニメに出てくる、実際に黒人であるキャラって誰がいたっけ?って話になって、進撃の巨人のオニャンコポンと、TIGER&BUNNYのネイサンとかかな…となった。

褐色キャラについて、「日本の漫画家は(肌の色に多様性を!とか)そこまで考えてないとは思う」という話をした。けど進撃の諌山先生は、黒人(ぽい)キャラ・アジア人(ぽい)キャラを出してるのもあるし、同性を好きなキャラや、ジェンダー不明なキャラがいるなど、作品の本筋とは別のとこで、実社会の縮図みたいに多様なキャラクターを作ってそれを作品に反映させてる感覚はあるよねという話をしたら共感していた。進撃の巨人自体が”人類と差別”を取り扱った物語だからってのがあるんでしょうね。

 

ディズニーの過去作にも黒人の主役キャラクターはいるのだが…

『黒人とコスプレ文化』の話の流れで私が、「アリエルを黒人が演じたことの意義ってそれもあるのかもね。たとえばディズニーランドに行くとき、小さい子供がプリンセスの衣裳を着ることとかあるけど、今って黒人の女の子にはティアナしか選択肢がなかったけど、これからはアリエルの格好したい!って自然に思えるようになるってことだもんね」と言ったら、そしたら彼が「実は“プリンセスと魔法のキス”はあまり好きじゃない… この作品と、PIXARの“ソウルフルワールド”はどちらも黒人が主人公なんだけど、共通するひとつの問題があるんだよね、何かわかる?」と聞かれた。

私「えー?“音楽が好き”がステレオタイプすぎる?」

友「違う」

私「ブルーカラーの仕事をしてる」

友「違う。正解は…作中、人間じゃない姿に変えられて、黒人のまま画面に映ってる時間がとても短いことwww」

私「た、たしかにーーーーー!!!!!」

「黒人は黒人のまま映画に出れないのか?っていうね。だから別に黒人たちの中でプリンセスと魔法のキスがとても評価されてるってことはないんだよね」と言ってた。目からうろこ。知らんかった。私が「あの映画他にも問題あるよね。金持ちの白人の家の女の子キャラ(シャーロット)が出てくるじゃん、実際には上下関係があったはずなのに、ティアナと対等な友達みたいな描かれ方されてるよね」って言ったら「そうそうー、ホワイトウォッシュの一部かもね」と言ってた。
私が今年フロリダディズニーに行ったとき、まじであちこちでティアナを見かけた(ショーの中とか、プリンセスグリーティングとか)印象で、ディズニー側からしたらティアナをvisibleにすることで人種の公平性を保とうとしてるんだろうなという強めな意図を感じたけど、別にティアナがいるから万事OKってことにはならないよなと改めて思った。

 

また話は飛んで、実在した”黒人のサムライ”の話

“黒人がコスプレしてもいい○○”の話から、「弥助って知ってる?」って話になった。織田信長に仕えたという黒人。ブラックパンサーでおなじみのチャドウィッグ・ボーズマンが演じる予定で映画の話が進んでたみたいだけど彼が亡くなってしまったので今どうなってるか知らないんだが、その話題を出してみたら「知ってる!!映画観てみたかった。僕はサムライが好きだからさあ…黒人がサムライになれるなんて、とても夢のある話」って反応が返ってきて、なんだかじーんとしてしまった。日本人にとって弥助は日本史の中の少し不思議なエピソードの一つという位置づけだけど、今まで散々語ったように自分たちのルーツが謎になってしまってる黒人の人たちが現実にいて、その中には日本のアニメが好きだったり、その影響で日本のサムライや忍者に憧れがある人たちもいて、そういう人たちにとって、日本のサムライの格好をして、そして日本史の中でもかなりメインストリームな人物である織田信長に仕えて、しかも忠義者という性格で、そういう黒人の人が歴史上本当に存在していて、弥助の物語を実際に黒人の著名なハリウッドスターが演じることができていたとしたら、私たちが考える以上に意味のある作品になってたのかもしれない。今頓挫してしまってるかもしれないけど、いつかこの話を観れたらいいなあと思った。

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おわりに

彼の話はどれも新鮮でおもしろく勉強になることばかりで私はこの夜とても感動したんだけど、むしろ彼の方から「本当に感謝してる、日本の歴史のことを知りたがる人は多いけど、黒人の歴史や文化的背景についてこんなに人と話せたことはない。興味を持ってくれてありがとう」みたいなことを言ってくれて、こちらこそありがとうの気持ちでいっぱいだった。

 

アメリカの抱える罪と痛みと向き合って作られた本作を、私なりに結構考えながら観れたので、充実の映画体験となりました。それではまた。

 

※6/12補足

本当に多くの方に読んでいただき驚いています。肯定的なコメント、否定的なコメント、どちらもとても興味深く拝見しております。彼ともシェアしたいと思います。この記事を書いた時点で自分の中でそこまで言語化できていなかった感情や意見もみなさんからのコメントを読むことで形になっていき、「もっとこう書けばよかったな~」と思うことばかりです。少しだけTwitterに補足したことがあるのでここにも貼っておきます。

メディアの中どころか、学校や会社など実生活の中でもほぼ同じ民族とだけ暮らす私たちにはどうしても想像しづらい社会問題が別の国にはあり、それでも私がディズニー映画を見たり彼が日本のアニメを見たりすることで、よその国の事情をわかりたいと思う、その気持ちはフェアなのだと信じたいです。
この記事ではそもそもディズニーは他国の文学作品を勝手に自分たちのものにしてる問題や、ハリー以外の役者がスペインやイギリス(歴史の中で宗主国側だった国)出身なのはいいんかい問題、実写版で追加されたカリブ海・スペイン商船という設定に対し、フォークの使い方を知らない黒人の女の子が白人の王子に見初められるアンバランスさ等、多くの別の問題を内包することについては触れておらず、私自身、他の方の批評や感想を読んでなるほどね~と学ぶことが多いですが、私のこの記事を通して、「すべてに共感することができないとしても、『少なくとも当事者側にはそういう事情があるのね』と知る第一歩につながった」といった反応を多くいただき、十分すぎるほど、書いてよかったと思いました。色々コメント読めておもしろかったです!

 

※6/15追記

 

今回私のもとに寄せられた有識者コメントの数々は私のTwitterで紹介しているので興味ある方はご覧ください!本当におわり。

 

linktr.ee

marshmallow-qa.com

 

*1:※6/14補足 本当に今更すぎるんですが、私たちの属性について、私を「日本人」と国籍名で書き、彼を「黒人」と人種名で書いたことについて、雑すぎました。黒人の日本人だっているだろ!と書いてから思いました。身バレされないよう自分の所属や属性は明言しない癖がついているのと、彼が英語で話すときにBlack, Japaneseという言い方をすることもありそれを訳するような感覚で書いたこと、記事内の”日本人は~”の部分を全部”大和民族は~”と書くのは(個人的な感覚として)右翼が書いた文章っぽすぎる…と思ったことなどからこのようにおおざっぱな書き方をしてしまいましたが、私がこの記事で「日本人」と書いた人は、「日本で生まれ育った、大和民族の人(日本国内の人種的マジョリティの人)」という意図で書いています。ハーフやアイヌの事例を出しているのに注釈などもつけず、配慮に欠けた書き方でした。アイヌ琉球民族などの少数民族の方、ハーフなどミックスルーツを持つ方、元は外国籍だったが帰化した方など、「日本人」という定義の中に人種/民族的に異なるルーツを持つひとたちがいることは理解しているということだけは補足させてください。

*2:ていうかこの彼女たちの意見に賛同できない人はたぶん私とも意見合わないと思う。一回このYoutubeTwitterでシェアしたときに、とんちんかんな意見で引用RTされてかなりムカついた

*3:※6/12修正 この部分に「ほぼ単一民族国家で」と書いていたのですが、コメントによる指摘をふまえ言い回しを修正しました

*4:いつの事例やねんという話ではあるが、この衝撃を超えるキャスティングはそうそうない

*5:リン=マニュエル・ミランダ製作の傑作ミュージカル『ハミルトン』のオリジナルキャストで、初めてDisney+で観たときラップうますぎてぶったまげた

*6:余談だけど一緒に観た友達はオークワフィナがあまり好きじゃないらしく、なぜかというとオークワフィナは黒人アクセントでしゃべってるらしくてそのことを文化の盗用なのではという批判があるかららしい。オークワフィナだけでなくマイリー・サイラスなどにも似た批判はあり、「有名になるために黒人の文化を真似して、有名になったらもう黒人の真似はしない人」っていう著名人は今までにもいて、現在はオークワフィナがそういう批判の対象になっているとのこと

*7:アメリカやカナダは本当に多民族国家なので、日本とは本当に状況が違うなとよく思う。日本の芸能界では逆に、ハーフの役者が、演じられる役が少ないという問題にぶちあたる…と城田優が以前どこかで言ってた気がする。