ミュージカル『Come From Away』をカナダで観劇してきました!

今年日本版が公開されて、いろんな人のレビューを読んでめっちゃ観たかった~と思っていたのだが、なんと幸運なことに私の滞在期間にトロント公演があり観劇できたのだった!!これって9.11の話だからアメリカの話なんだけど、観たら結構カナダの話なので、そういう意味でもカナダで観れたことは幸運でした。
あらすじ。
9月11日
あの日、世界が停止した。
9月12日
ある小さな町で起きた奇跡の物語。
この物語は私たちに、世界に希望を与えた。
2001年9月11日、ニューヨークで同時多発テロ事件の発生。アメリカの領空が急遽閉鎖された。目的地を失った38機の飛行機と7,000人の乗客・乗員たち。行き場のない38機の飛行機は、カナダのニューファンドランド島のガンダー国際空港に降り立つ。
カナダの小さな町。わずか1万人の人口は一夜にして約2倍となった。人種も出身も様々な人々はこの地でどんな5日間を過ごし、飛びたつのか―
100分間休憩なしで各役者が複数の役をぐるぐる演じるパッションあふれる群像劇!音楽がとにかくよくてずっと引き込まれっぱなしだった。小道具や衣装を少し変えるだけで別人に見せる役者の芝居も本当にすごかったな~。舞台装置も椅子くらいしかなくて、それだけを使って飛行機やバスの中、カフェや学校や教会の中を表現するのもすごい!ちゃんといま誰がどこにいるのかがわかるって高度なことだよな~。

9.11当時のことは私はもうほぼ記憶にない。ただ去年NYのNational September 11 memorial museumに行ったことで改めて学びなおしたことと、カナダにいると何かっつーと9.11のことが会話に出てきたりする*1ので、そのへんのベースの知識を持ちながら観た。





観ながら結構カナダあるあるが出てくるのがおもしろかった笑 これに気づけるとおもろさ2倍だと思うので、カナダに住んだ経験を持ったうえでこのミュージカルを観れてよかったな~と思った。たとえばこんなの。
- 初っ端から町長が「私の毎日はTim Hortonsから始まる」と言ってるシーンでお店のサインボードにもTim Hortonsって書いてあるんだけど、これはカナダではスタバよりマジでどこにでもある有名ドーナツチェーン店で、この店の看板を見た瞬間にここはカナダだってわかる。どんな田舎にも必ずあるらしい。私も週5で通っていた。Tim Hortonsでコーヒーを頼むときに「砂糖2つ、ミルク2つ」で頼むことを”double double”という独自の用語が存在して、アメリカのスタバとかでついクセで「コーヒー1つ、double doubleで」って頼んでしまったら「お前カナダ人か!?」ってバレる…みたいなミームが存在するほど、カナダの文化を代表するチェーン店。日本人にはまったく馴染みがない店だと思うけど*2、アメリカ人にはある程度”あ~カナダのチェーン店ね”って想像がつくのかな?少なくともカナダの観客はめっちゃ笑ってた。
  
  
  
  
- 乗客のためにトイレットペーパーやオムツを買わないと!ってシーンで「そこで俺はShoppersに行き…」って台詞があって、これはカナダの大手ドラッグストアShoppers Drug Martのこと。まじでどこにでもあり、Shoppers以外の薬局知らんレベル。薬だけじゃなく日用品や食料品、本や雑貨まで置いている。Shoppersの名前が連呼されるシーンで観客もめっちゃ笑ってたんで、日本で言うと「それでまたマツキヨに行って…」とか固有名詞連発されてる感覚なのかな。
- 乗客をバスに乗せて町まで移動するシーンでヘラジカが現れてバスがストップするシーン。トロントに住んでた私はさすがに一度も見たことないけど、カナダのギフトショップに行くと100パー見かけるのがヘラジカなので、カナダの田舎あるあるなんでしょう。
- 乗客が寄付された服に着替えるシーンで、ケヴィンが赤とこげ茶の格子模様のシャツに着替えるシーン。由来はわかんないけどこの柄もカナダギフトショップでやたら見かける、いわゆる”カナダっぽい”ファッション。さらにもう片方のケヴィンが「どう見てもゲイのlumberjack(木こり)だ」と言い放つ台詞があるけど、これもよくあるステレオタイプギャグだな~!と思った。アメリカ人はみんなハンバーガーばっか食べてんでしょ?日本人はみんなオタクなんでしょ?アラブ首長国連邦の人はみんな石油王なんでしょ?みたいな、雑すぎ国民性イメージジョークを言うとき、カナダ人は全員木こりなんでしょ?っていうの、あるある(んなわけないからおもろいという話)
- 食料は届くけど冷蔵庫がない!っていうシーンで、アイスホッケーの試合をキャンセルするからそのスケートリンクを貯蔵庫として使ったという話。町長が「ホッケーがキャンセルなのか!?」っていう台詞や、乗客の帰宅後に「ホッケーも再開だ!」っていう台詞があったけど、それもそのはずでカナダの国民的スポーツがアイスホッケーだから。野球やバスケもアメリカと一緒のリーグがあり人気だけど、アイスホッケーに関してはもはや国技で、カナダのパスポートにもアイスホッケーがプリントされているほど。2010年に自国開催したバンクーバーオリンピックで、アイスホッケーの決勝戦はなんとアメリカvsカナダだったらしく、この、国のプライドを賭けた試合で延長線の末にカナダが優勝を決めた瞬間はカナダ人の心に伝説として刻み込まれているらしい。友人が「カナダの国民全員試合観てたと思う 笑」と教えてくれた。つまり、それだけカナダ人のとって大事なホッケーの試合をキャンセルするほど、9.11は非常事態だったんだということ。
あと、あるあるとは違うけど、最初と最後のWelcome to the rockで「島国根性とは無縁だが島人ならではの気質がある」「どんな人も歓迎する、私たちは皆同じ旅人(Come from away)だ」みたいな歌詞があって、これはカナダの人の基本的な心情である「この国にいる人は(先住民イヌイット以外)みんなどこからか来た移民だ」っていうのが反映されてるんだと思う。アメリカでもよく聞く概念かもしれないけど、アメリカやカナダは白人の国だと思ってる人に対して「白人だってもとは移民」っていうカウンターがあるので、ニューファンドランドの人はこの考えが根底にあったからどんな人も仲間として受け入れるスタンスがあることの表現かなと思った。
どのシーンも本当によくてはっとするものばかりだったけど、特に私の心に残ったのは「あのときはほとんどの人がまだ携帯電話を持ってなくて、インターネットもなかった」「今を生きる私たちにはテロはアメリカでだけ起こり4機以外はないってわかるけど当時の人たちは知る由もない」ってことだった。何が起こったか知らないまま飛行機で28時間も待ち続けなきゃいけなかったのしんどすぎ!!けど飛行機を降りたらさらに辛い現実をTV越しに見ることになるシーンが胸に刺さった。ジャニスの「想像もしてなかった。乗客は何が起こったかをまだ知らない」っていう台詞が重い。誰かがTVを消すまでただ画面を見続けるしかなかったそのやるせなさと絶望感たるや…。食べ物よりも電話をほしがったって、言われてみればそうなんだけど改めて言われるまで全然想像できなかった。
ひとりひとりのキャラクターも、一瞬のシーンや台詞で、どんな人なのか立体的に伝わってくるところがいい。あげていったらきりがないけど、まずはやっぱり、アメリカンエアライン初の女性機長ビバリーのすべてのシーンが忘れられない。いわれてみればそうだっただろうな…と思わされたのは、あの瞬間、ハイジャックされなかった飛行機に乗ってた同僚のパイロットたちは一番最初に「その飛行機に誰が乗ってたか」を聞きたかったに決まってるよなってこと。自分も同じ日に同じエアラインの飛行機を操縦してて、どういうわけか今カナダの最果てで家族に安否を報告してる。どんな気持ちだったんだろう。「チャールズ?本当に?」と名前を聞いた後、「私は大丈夫」と声色を変えないようにしながら顔はショックで泣きそうになっているシーン。乗客とTVを観ながら「すべてのパイロットは飛行機を守るために死力を尽くす。チャールズ、あなたは最後まで闘ったのね」とつぶやく台詞。このミュージカルはほとんどが全員歌唱の曲なんだけど、ビバリーだけソロ曲があるのも圧巻だなあ。この女性の人生の歌だけど、飛行機を愛する人の目線でみたハイジャックという出来事についても考えさせられる歌だった。自分だったらこんな惨劇が起きた後にまた飛行機を操縦したいと思えるかな…。ビバリーが次の週には職場に戻り仕事を再開したのすごすぎるけど、テロなんかに負けないっていう覚悟があったんだろうな。この役が日本キャストだと濱田めぐみさんなのすごい納得!!濱めぐさんのMe And The Sky、聞きたかったな~!
乗客のみんなも9.11にアメリカ行きの飛行機に乗ってたという状況は同じなわけで「自分があそこにいたのかも」と考えずにはいられなかっただろう。飛行機が不時着してカナダの田舎町にとどまらなくてはいけなくて、それはそれで大変な思いをいっぱいしたはずだけど、でも自分は温かくもてなしてもらって、大変だったねと家族に声をかけられてもうまくあの経験を話せない、今も燃えているWTCを見ながら「あそこよりずっと自分はましだった」と言えないという気持ち。痛いほど伝わってきた。
「You are here(私はここにいる)/You are there(あなたはそこにいる)」と繰り返されるフレーズがあるけど、場面場面でニュアンスが少しずつ違う構成が美しかったなあ。
人種や宗教の異なる人たちが集まることで起こるトラブルを連発してくるところはさすがだと思った。アメリカやカナダのような移民国家で特に顕著な問題にも見えるけど、空港という場所ならどの国でも起こることとも思える。そもそも、スマホやGoogle翻訳もない時代に全く言葉がわからない場所に降り立つってめちゃめちゃ怖くない?!
セキュリティを通るときに「ワシントンDCに行こうとしてたエジプト人」が別室に通されるところ。イスラム系の乗客が誰かと電話しているときに「仲間とテロのことを祝ってるのか?英語で話せ!」と他の乗客に詰め寄られるところ。極めつけはイスラム系の乗客が宗教上妻以外には見せてはいけないといわれている身体を女性がいる部屋でチェックされるシーンだろう。どれほどの屈辱でどれほど不当な扱いか、「あなたにはわからないだろう」という重い一言で伝わってくる。明確に人種差別的なシーンを真正面から描いてると思った。本当に当時こういう検査された人たちがいたんだろうな…。帰国後アリが「娘が学校に行くのが怖いという。自分はどうすればいい?」と独白するところは、9.11以降のアメリカでイスラム系・中東系の人が晒されることになる差別を一言で暗喩していると思った。まったく無関係の人たちが差別によって時には命を奪われるほどのヘイトクライムに晒されることを私たちは知っているので…*3
それぞれに食べるものや祈り方も違う人たちのために島民たちがそれぞれの食事や祈る場所を提供するのは本当にすごいと思った。日本で災害が起きたとき、どの程度まで配慮されてるんだろう?キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の人たちがそれぞれの歌で祈るシーンは音楽も何もかも静謐で美しくてすてきなシーン。乗客のユダヤ人と、戦前に両親からユダヤ人であることを隠せと言われて育った島人が会話するシーンも忘れられない。イスラム教の人が受けた仕打ちも宗教に基づくトラブルだが、こんなときだからこそ、同じ神様を信じている人がそばにいるってことが慰めになる瞬間もあったんだろう。言葉が通じないアフリカからの乗客に、聖書の番号を指し示して「何も思いわずらうことはない」と伝えるところなんかもよかった。
一方で、ガンダーの人たちの明るさや前向きさのおかげで暗いだけじゃなくて、結構笑えるところや明るい気持ちになれるところも多いし、希望を感じられる後半になっているのもいい。バーのシーンはめちゃくちゃ楽しかった!ケルトっぽい音楽が耳に残ってクセになる~!舞台横で生演奏してた生バンドの人たちがここでは舞台上に集まるのでさらに盛り上がって楽しい。
ようやく帰れる!島のみんなありがとう!お礼に寄付を集めるよ!ここで自分を見つけて自分の一部を置いてきたんだってなってみんなが帰っていくところは本当に明るい気持ちになれて、ハッピーエンドに向かってるのかなという雰囲気になるんだけど、その後に「息子は死んだ。終わりよ」とハンナが告げるところで一気に現実に引き戻されるところが凄まじかった。そうだった、これは現実に起こったことで、ガンダーに降り立った乗客たちは家には帰ることはできても世界は二度と同じには戻れないのだった。
ところで、ミュージカルはカナダ人の友達を誘って観た。カナダに関係する話だと聞いてたからカナダ人の子の意見を聞いてみたかったし、英語が1ミリも聞き取れなかったら後から教えてもらいたくて。。笑 誘ったとき、「このNewfoundlandの話、知ってる!あと私Newfoundland出身の友達いるんだけど、とてもいい人だよ」って言ってた。ついでにこの子の苗字が町長の苗字と同じだそうで、「Newfoundlandはカナダの最東で、ヨーロッパ寄りだからイギリスやアイルランドからの移民が多いんだよね。私のおじいちゃん方の先祖もアイリッシュ系だからだから苗字が一緒なのかなと思う」って言ってて興味深かった。
以下、その子と話したこととか。
- 「なんでトロント*4やオタワ*5じゃなくてここなんだよ」という台詞があるが、たしかにニューファンドランドにはジャンボ機給油用のでかい空港があったからというのもひとつの理由なんだけど、この時点では誰も、テロリストが乗ってる飛行機が何機で、どれに乗っててどれに乗ってないかなんてわかりっこなかったから、何かあったときに大都市だったら被害が拡大するという判断がありニューファンドランドに送り込まれたことを示唆する町長の台詞がある。このシーンについて友達が「つまりガンダーの人は、もしかしたらテロリストが乗ってるかもしれないというリスクがある飛行機を38機受け入れたということ。すごい覚悟だと思う」と言ってた。このときアメリカ政府とカナダ政府の間でどういう会話があったんだろう。取引があったのかもしれないけど、時間なさすぎてとりあえず好意で受け入れたのかもしれない。9.11のときのアメリカ大統領がブッシュなのは有名だけど、このときのカナダ首相が誰でどんな政策を行ってたか、全然知らないなと思ってとりあえずwikiを読んだ。私のイメージではカナダはアメリカの戦争には全部参加させられてるのかと思ってたんだけど、どうやら、アフガニスタン侵攻には協力したが、イラク戦争には参加していないらしい。ナ、ナイス判断すぎじゃない?
- ボブ役の役者さんがアフリカからの乗客のシーンを演じるところ、ケヴィンJがエジプト系の乗客アリにスイッチするところは、私でもわかるほど英語のアクセントをアフリカ訛り・エジプト訛りに変えていた。この話をしたら、「すべての役者さんが2~3個の英語のアクセントを操ってると思う。ニックはちゃんとイギリス英語だし、そもそもみんな島民のときはあ~カナダの田舎のほうのアクセントだなって感じだし、アメリカ人を演じるときはアメリカっぽい話し方」っていってておもしろかった!英語がわかる人にはこの舞台に登場する人たちの多様性がもっとリアルに感じられておもしろいんだろうな。あとケヴィンJはThe ゲイ!!な話し方すぎておもしろいんだけど、いかにもLAゲイみたいな喋り方のケヴィンと差別に打ち震えるエジプト人アリを同じ役者が演じてたの脳バグる…途中まで違う人が演じてると思ってた。日本キャストだとどんな演じ分けだったのかな~、気になる!!
- 機内のシーンとバーのシーンの2回『タイタニック』のテーマが歌われるところがあるんだけど、これは「非常事態が起きてるときに不謹慎!」っていう皮肉ギャグだと思ってたんだけど、それプラス、「Near, Far, wherever you are(近くても遠くてもあなたがどこにいても…)」がこのミュージカルのテーマである「私はここにいる/あなたはそこにいる」と意味的にかかっているということ、さらにタイタニック号が沈んだのがニューファンドランド沖だからという文脈もあるっぽい。
 
- 中東系、イスラム系へのセキュリティが不当に厳しかったシーンについて。「明確に差別なんだけど、あの時点では他の飛行機にはテロリストがいないかどうかなんて誰もわからなかったことで、難しい問題だね…」という話をした。少しずつテロの全貌がわかってきて、明確にどこかの地域のとある宗教を信じる団体がアメリカという国をターゲットにおこしたテロだということがわかったら、その属性を持つ人と同じ飛行機に乗ることを恐れるなというほうが無理な話な気がする。もし私がそのとき空港の保安場で働くスタッフや、乗客の安全に全責任を持つ機長だったら……自分のやっていることは人種差別だとわかっていてもビバリーたちがそうしたことを、安全圏から批判することなんて私たちにできるか?
- ケヴィンJ「カナダに野菜はある?」ケヴィンT「彼はベジタリアンなんだ」のところ。LAのゲイがベジタリアンっていうの超あるある~で笑えるシーンだと思ったけど、友達いわく「カナダの料理に野菜なんてない。じゃがいもしかないよwww」とのことで、その文脈ものっかっておもしろいシーン。
- バーのシーンでスクリーチっていうアイリッシュウイスキーが出てくるけど、これもニューファンドランドのお酒として有名で、友達は見てすぐ”あーね!”ってなったと言ってた。
- 「島人の庭からBBQグリルをとってこい」といわれたボブが、こわごわグリルをもっていこうとするところを島人に見つかるが、銃で撃たれるどころかみんなが自分にお茶をふるまおうとする、というシーン。銃社会アメリカへの皮肉と、島人のおおらかさの対比がおもしろいシーンだけど、これはボブの役者さんがアフリカ系であることがキモで、「黒人が誰かの庭で何かを盗もうとしてたら銃で撃たれるというのが、アメリカではまじでありえる」ということ。北米の人なら見た瞬間にその人種キャスティングによる文脈を実感として理解できるシーンらしい
- ハンナが息子を失うシーン。私が、ハンナの息子が亡くなったという台詞で最後突然現実をつきつけられたよね…というような話をしたら、「『私の息子はレスキュー2で働いているの』というハンナの台詞があって、レスキュー2は911で全員殉職した消防隊として有名だから、その名前が出てきた時点でハンナの息子は亡くなってると観客の多くは気づいたと思う、つらいシーンだったね」と言ってて、そうなんだ…!!と思った。私は知識がなかったけど後から調べたら記事を見つけたので、あの場にいたカナダ人と私は違う観劇体験をしたんだなあ。NYの911メモリアルミュージアムで見た消防車は、レスキュー2のものではないけど同じFDNY(Fire Department of the City of New York)のもの。 
- ジャニスが最後に「トム・ブロコウにドキュメンタリー番組を作るから協力してくれと声をかけられたの。トム・ブロコウよ!」と言うシーンがあって、誰???と思ったけど、北米の人なら名前を聞けばわかるらしい。調べたら、1989年にベルリンの壁崩壊を最速で現地リポートに成功したなど、"何かを最初に実現した"記録を数多く持つアメリカの看板ジャーナリストだそう。
 
- ケヴィンカップルが最初自分たちがカップルであることを隠している(つもり)が、ぽろりとこぼしてしまい、しかし島人の反応は「私の家族にもゲイがいる」とあっさりしたものだったこと。これはカナダのほうがアメリカよりゲイに寛容ということなんじゃないか?と思った。「保守派は怖いから」とケヴィンが言うように今もアメリカの田舎の方で敬虔なキリスト教徒などを中心にゲイに反対する人は根強い。だから、白人だらけの田舎町ニューファンドランドもそうなんじゃないかとケビンたちが身構えたってことなんじゃないかと思った。テロがあったのは2001年で、当時まだアメリカでもカナダでも同性婚は認められていなかったが、アメリカ全州で同性婚が合法化されたのが2015年であるのに対し、カナダは2005年と10年も早く、制度化はされていなかったが2001年の時点ですでに社会風潮としてカナダにはそんなにゲイへの偏見がなかったということなのかも。
帰り道、9.11当時のことを覚えている?という話をした。私と同世代の彼女も当時小学生で、それでも「学校にいて、生徒はもちろん何も知らなかったけど、職員室があわただしかったことを覚えているなぁ。アメリカでこんな事件があったから気を付けて帰りなさいって話があった」と言ってた。「気を付けるも何も、どうしようもないよね」って言ったら、「というか、あの日あの時点では、誰が何のためにやったことなのか誰もわからなかったから、もしかしたらCNタワー*6も攻撃されるのかもしれないってのがあったんだよね~」って言ってて、たしかに…と思った。家に帰って親とテレビを見て、大変なことが起こってるぞと親が言ってたことも覚えていると。
別のカナダ人の友達ともこの話をしたことがあって、彼は「当時もちろんインターネットもなかったし何も知らなかったんだけど、自分の小学校はランチタイムに家に帰って家族と昼ごはんを食べる子たちもいて、そこでTVでニュースを見た子から午後そのことを聞いて知った」と言ってた。子ども心にすごい衝撃だっただろうなあ。日本の人だって衝撃を受けただろうけど、国境を面する真隣の大国で起きた事件を目の当たりにしたカナダの人たちのショックは計り知れない。そんな中でも、ニューファンドランドの島民のように、リスクを知ったうえで受け入れ、隣人に手を差し伸べ、自分にできることは惜しみなく与えた、勇気ある人たちがいる。一人の救世主の話でなく、市井の人々が行ったことだが、実際に誰にでもできることでは到底なく、英雄的な行動だと思う。
今も人種や宗教による分断が続き、分断を助長する大統領候補が国の半分から支持されるアメリカ。アメリカでこのミュージカルが評価されたのは、それでも移民たちによって建国された自国を愛し誇りに思う気持ちに響いたからなのかな。そして今、トロントでの長期公演が始まり、カナダの最北東の小さな島でおきた勇気ある物語が、移民をアメリカ以上に受け入れすぎて経済や治安に混乱が起きていることをもはや誰も否定しなくなっているカナダ人のことも強く励ますだろうと思う。
「多様性が我々の力だ」と、建前でも言い続ける胆力が、この2国のパワーだと私は信じているから。
アメリカと世界の運命を永遠に変えたあの日のこと。大切な人を失った人や、今もPTSDに苦しむ生存者がたくさんいる。それぞれの国に、その前後で国のあり方が丸ごと変わってしまった出来事ってあると思うけど、アメリカにとって9.11はまさにそれだった。テロが起こる前のアメリカには二度と戻れないし、それによって引き起こされた新たな怒りや苦しみ、付随するたくさんの戦争がある。理由もない大きな暴力によって失われたたくさんのものたちに、私たちは立ち尽くすことしかできないと思ってしまいそうなとき、「そんなことはない。隣にいる人を励まし支えることならできる」と寄り添うこの物語は、困難な世界を生きる私たちに一条の光をもたらす希望なのだと思った。
会場にいる観客を見渡すと私よりずっと年配の白人の方が多くて、ここにいる人たちはきっと23年前のあの日もカナダにいたのだろうと想像する。政治も経済も言葉も文化もほとんどを共有する兄弟のような隣国で想像を絶する惨事が起こったあの日、ニュースを見ながら何を思ったのだろう。そして今このミュージカルを観ながらどんなことを思ったかな。物語の持つ力と自分の個人的な経験もあわさり、最初から最後まで涙が止まらなかった。

ところで、いつも思うことだけどミュージカル英語はむずい…!事前にめっちゃいろんな人の日本語レビューを読んでたから話の大枠はわかったけど、もっと細かいところまで理解したいのに…無念……と思っていたら、なんとApple TV+で日本語字幕付きでブロードウェイ公演を観れる!!*7ということで、Apple TV+って何?って感じやったけどサブスクして毎日観てます。日本公演を観て、人種や宗教のとこもっと視覚的にわかるようなブロードウェイ公演気になるって思った人にはぜひおすすめしたいし、逆に今カナダにいて、これ気になるけど英語が理解できるか自信ないからな~って人にはまずこれで予習してから観にいくのもおすすめしたい。
エンドロールでキャストとモデルとなった実在の人物のツーショットが見れるのめっちゃいい!!!
Royal Alexandra Theatre(King駅の近く)で、来年3月2日まで公演しているよ。本当におすすめなので、ぜひ!
*1:日本マクドナルドのアニメ風広告がアメリカで「企業広告に出てくるカップルが男女で同じ人種だなんて、逆にめずらしい…!?」とバズっていたとき(あほくさ)、第2弾のビジュアルが発表され、それに対してついてた引用RTの意味がわからずカナダ人の友達に聞いたところ、「9.11当日、ブッシュ大統領はフロリダの小学校を訪問して読み聞かせしてたんだけど、これは2棟目のビルが攻撃されて『テロの可能性が高い』ことを補佐官から耳打ちで伝えられた瞬間の写真で、有名すぎてミームになってるの。”2つめの広告が俺たちのTLを攻撃しました”って感じ」と解説され、9.11ってそんな形でも北米の人の心に根付いてるんか…と思った
*2:少なくとも私はカナダに行くまで存在すら知らなかった
*3:ワシントンDCの博物館で、9.11の後まったく無関係のインド人の青年が襲われ殺されたという展示を見た。ブラウン系の肌の人の見わけがつかず無差別な暴力が行われたことを示す事件だと思う
*6:カナダ・トロントのシンボル的なタワー。日本でいう東京タワー、スカイツリーみたいなやつ
*7:バーでのケルトっぽい島人の歌が「ヨイトマケ~🎵」って字幕ついてるのおもろいけど、確かにそうか!!って感じ。ありがとう翻訳した人!
