帝劇で『マリー・アントワネット』を観てきた(花總まり/ソニン/古川雄大)

観てきました。

f:id:chanaoi214:20181020202223j:image

 

前半は、悪くはないけどわりと淡々と進んでいくな~という印象だったのだけど、後半のカタルシス凄すぎて号泣。お、重かった… すごーく重厚で上質なミュージカルでした。

www.youtube.com

事前に何も調べてなさすぎて、本作のロゴ「MA」はマリー・アントワネットの略称だと思っていたのですが、マルグリット・アルノーのイニシャルでもあるんだそうで…つまり、似た名前をもつ同い年くらいの女性、でも立場が真逆な2人が主役で、2人の運命の交差がテーマなのだね。

実際にあった「首飾り事件」という出来事を軸にした物語です。

 

 

マリー・アントワネット花總まりさん。もーねー、さすがの一言よ…。前半は、可愛くてわがままで世間知らずのお姫様ってかんじで、それはそれでチャーミングなんだけど、花總さんのすごいところって全編通してずっと「高貴」なところだなと思いました。後半になるにつれて、彼女の王妃としての姿や母親としての姿が出てくるわけなんですが、怒ってても泣いてても人にすがりついて懇願してるときも、根底に品格を感じる。あんまりうまくない人がやったらキーキーわめいてるだけになっちゃいそうなシーンも、きちんと、これは身分の高い人が自分の家族と矜恃のために怒ってるんだ…ということが観ていて伝わってくる。さすがだよなー、さすがレジェンド・オブ・マリーアントワネットだね。

あと、中盤でベッドに倒れながら歌うシーンがあるのだけど、普通、人は横になった体勢で同じように歌うことはできないので、花總さんの実力の高さを思い知りました…

 

髪の色が真っ白になってしまうシーンで、おんな城主直虎の佐名さまを思い出した。花總さんが演じてて、殺される前に髪が白くなるお姫様…ということで、放送当時から「マリーアントワネットじゃん」って言われてたんだけど、そういう、高貴さと悲劇性を背負う姿がほんとに美しいひとだと思った。茶々とかやってほしい。

 

フェルゼンへの恋心に溺れて、自分の側近になってほしいというマリーの申し出を断る彼に「私はフランス王妃なのよ!」と言ってしまったあと「違うの…今のはなんの意味もないの」としおしおになってしまう。彼女は普通の女性としてフェルゼンと恋をしたくて、それはマルグリットたち市民からすれば「恵まれた立場のくせに」と「王妃なんだから国のことを考えるべき」という2つの意味でわがままな考えなんだけど、マリーにとって王妃であることは義務であり、孤独でもある。”孤独のドレス”が彼女の鎧で、ドレスを脱ぐこと(=王妃を辞めること)は彼女自身が選択できることではなく、それがつらいのに、フランス革命が突き進むと無理やり王座から引きずりおろされてしまう。マリー・アントワネットに今でも現代人が惹きつけられるのは、運命に翻弄されたお姫様だからだよなあと思います。聖人ではないけど悪人でもないってところとかね。

 

 

マルグリットはソニンちゃん。1789のときから「お姫様じゃない女の子」が本当に上手だなーと思っていたので、今作はそれの真骨頂だと思った。歌がうまい…!わたしソニンちゃんが何かと戦うために歌ってる歌を聴くといつもぼろぼろ泣いてしまうのですが、本作でも、天国にも地獄にも突き抜けるようなパワフルな歌声にめちゃくちゃ感動した。

1789のソレーヌに通じる役どころでもあり(どうしても重ねてしまう…)、マリーへの憎しみと反発心、相反しているのになぜか心が通じる瞬間があることなど、本当に表現がうまくてすごかった。マルグリットは戦士なんですよね。”13歳で必死に便所みがきの仕事をしていたときにマリー・アントワネットの結婚パレードを見て、あたし叫び出したかった…”の歌、ほんっとによかった。。

 

マリーとマルグリットが1対1で歌う喧嘩の歌(?)すごかった。お互いがお互いのことを「私のことなんて何も知らないくせに!」と叫ぶ壮絶さよ… 花總さんの貫禄に負けないソニンちゃんすごいな。マリーvsマルグリットのシーンなんだけど、花總さんvsソニンちゃんというミュージカル女優同士のガチンコ勝負にも見えてすごくかっこよかった。

 

 

フェルゼンは古川くん。王子様だねぇーー!!顔小さいしスタイルよすぎてすごかった。

わたしはベルばらを履修していないのでフェルゼンという男にまったく思い入れがないのだけど、彼がマリーとその家族のために殆ど命をかけて奔走したひとであることがよくわかった。ルイ16世もフェルゼンとマリーの仲を知った上で特に咎めなかったといいますが、王家への献身が本物だったんだろうと想像する。

 

ルイ16世のことを「ルイ」って呼ぶマリー、新鮮で可愛かった(1789では二人称も「陛下」だった。どっちが史実に近いんでしょう)。仲の良い夫婦だったといいますが、内向的な夫と社交的な妻というのがよくわかった。ルイはきっとマリーのこと好きだったんだろうな~ この世のきれいなもの全部あげたかったんだろうな…(秀吉と茶々じゃん…)本作は基本的にマリーとフェルゼンの恋物語がメインなんだと思うけど、ルイとマリーの関係性も好きでした。マリーもきっとルイのこと好きだったよ… 燃えるような恋じゃなくても、それとはまったく別の愛があったはず。

 

だからこそルイ16世が処刑されたあと「あなたのせいよ」とマルグリットに詰め寄るマリーのいたましさにわんわん泣いた。「あなたもあの広場にいたの?」から始まる押し問答がつらくて、つらくて… 

畳み掛けるように悲劇がマリーを襲うので終盤はずっとしんどい。ただ1人自分と共に残ってくれた友人・ランバル公妃は殺され、暴徒が彼女の首を串刺しにして行進しているのを幽閉された窓から見てしまうことや、(国王が「君は窓の外を見てはいけない!」と止めるのつらすぎ)ルイ16世ギロチンで殺されたあと、息子まで奪い取られてしまうこと。史実でこの息子・ルイ17世がこのあとどれほど残酷な目にあうかを知っているので余計にしんどすぎた*1

息子を連れていこうとする兵士たちの足元にすがりついて立ち向かうマリー… そのシーンでマルグリットは子どもたちを抱きしめて守ろうとしてるんですよね。マルグリットの意思は「王家を倒したい」ではなく「正義のために戦うこと」にあるので、子どもたちに罪はないと考えることや、マリーたちへの罰が度を超えていると感じ始めることは、無理のない流れだし勇敢な女性だと本当に思った。裁判のシーンで「王妃を庇うなら次はお前がギロチンだ」と脅されてもなお嘘をついてマリーを庇ったマルグリット… 二人の間に友情があったわけではないけど、マルグリットがそうした理由は痛いほどわかった。

 

 

あとは…すんげー歌のうまい悪役がいて、誰かと思ったら美女と野獣のガストンの人(吉原光夫さん)でした。あんまり力まずに歌ってる感じがするのにものすっごく太くて伸びやかな声で歌うのですっごくかっこよかった!

あと声だけで「これ1789の秘密警察の人か?」って思った人がいて、秘密警察の人(坂本健児さん)でした。この方もさすが元シンバ(ライオンキング)というか、脇役してるのもったいないくらいの美声。。

 

フランス革命現代社会に与えた影響の大きさをなんとなく考えた。自由、博愛、権利、身分の撤廃…みたいな、日本にも輸入されることになるこういった思想は、たくさんの犠牲の上に成り立っているもので、その悲しみには王政側も市民側も関係ない。1789ではどちらかというと市民側に感情移入するつくりになっていたと思うけど、本作は王政側の悲劇のほうにより重点が置かれているように思った。マリー・アントワネットは悪い人じゃなくて、でも「立場が人を作る」んだよなー。何も知らないオーストリアの14歳の女の子も、周りからちやほやされて湯水のようにお金を使ってもいい生活に投げ込まれたら誰しもこう育つだろう。逆に彼女が路上に捨てられていたら王政を憎んだだろうし。そういうのって運命でしかない。よね。フランス革命というエポックメイキングな出来事に関して真逆の立場をとる2人の女性の運命が交差する…という着想はおもしろいなーと思いました。どっちのMAも立派で気高く、勇敢な女性でした。

 

1789を観劇したときから、もっとフランス革命のことちゃんと勉強したいなと思ったんだけど、今回もやっぱり思いました。何か本でも読んでみようかな。知識がなくてうまく感想をまとめられないけれど、観劇の感想って「もっと色々調べてから書こう」と思うと永遠に書かないということがわかったので*2、観たその帰りに電車の中で打つということをしてみたのだった。

とてもよいミュージカルでした。観れてよかったです。

 

 

 

twitter.com

*1:詳しくはWikipediaを読んでみよう!死ぬほど鬱になるよ

*2:5月に観た1789の感想文、寝かせすぎてほぼ腐った